Pocket

福岡県北九州市のマンションの一室で、ある一人の男性の指示のもと、肉身同士が殺し合った末に全滅させられるという前代未聞の事件が起こった。

 

2002年3月に、17歳の少女が警察に保護されたことがきっかけとなり、監禁大量殺人事件が発覚した。

犯人の男の名は「松永太」。内縁の妻は「緒方純子」。

 

松永は、明るい人柄と巧みな弁舌を使って他人の家族を監禁・虐待によって奴隷状態にし、気に入らなければ自分は一切手を汚さずに家族同士で殺し合いをさせた。

北九州市のマンションの一室で、松永の指示のもとに7人もの人間が殺さていった。

松永は、他人の心を巧みに操ることに長けていただけでなく、遺体の処理方法についても非凡な才を発揮した。

 

犯罪史上類を見ない残忍かつ猟奇的な事件だったため、報道規制が敷かれたことから事件の知名度は高くない。

 

松永太

 

緒方純子

事件の発覚

事件が発覚したのは、17歳の少女A子が祖父母の家に逃げ込んだことからだった。

 

当時の少女A子は、松永太と緒方純子(以下純子)によって、北九州市にあるマンションの一室で監禁状態にあった。

なんとか隙を見て脱出したA子は、祖父母の家に駆け込み、父親が殺されたことを話した。

息子が殺されたことを知って驚いた祖父母は、あわてて警察に通報し松永と純子は逮捕される。

 

その後の警察の取り調べにより、他にも男児4人を監禁していたことが分かった。

そのうちの2人は金銭を強要して預かった子で、残りの2人は松永と純子との間に生まれた子だった。

自分の手を汚さずに肉身同士を殺させる

松永太は高校卒業後、有限会社ワールドという布団販売会社を立ち上げたが、営業手法はほとんど詐欺のようなものだった。

詐欺の容疑で指名手配された松永は、純子とともに逃亡生活を送り、アパートを仲介してもらった不動産会社社員Bさん(34)の自宅に転がり込んだ。

Bさんの娘(当時10)が警察に保護された17歳の少女A子で、松永と緒方が転がり込んできたことで4人の生活が始まった。

 

ほどなくして松永は、Bさん親子に虐待を開始し、Bさんを殺害。

死体の処理は、純子とA子さんに行わせた。

 

次に松永が目をつけたのが、純子の実家だった。

純子の実家は資産家だったが、両親は周りの目を気にする人だった。

松永は、娘が犯罪を犯したと純子の両親を脅迫し、緒方一家をマンションに招き寄せて監禁した。

 

松永の監視下では、生活に様々な制限が付けられた。

トイレに行くには松永の許可が必要で、小便はペットボトルで行い、大便は1日1回までだった。しかも、大便を便器に座って行ってはならず、大便の際は互いに監視させた。粗相はをすれば大便を食べさせられた。

シャワーや歯磨はさせてはもらえなかった。

食事は、簡単なものばかりで、時間制限が設けられていた。

松永の監視下に置かれた一家は、こうして精神的に追い込まれていき、おかずが一品増えるだけで心から松永に感謝したという。

 

肉体への虐待、睡眠・食欲・排泄による精神への追い込みによって、一家は松永の従順な奴隷となった。

 

 

松永による最初の犠牲者は、純子の父親だった。

父親が殺害された後、精神がおかしくなった母親を純子の妹に殺害させる。

そして、純子の妹を夫と妹の実の娘に殺害させた。

さらに、10歳の少女に5歳の弟を殺害させ、死体処理も行わせた。

10歳の少女も最後には純子に殺害させて、純子を除く緒方一家6人は誰もいなくなった。

事件の経過

昭和55年3月 松永太、緒方純子(以下純子)が福岡県の同じ高校を卒業する。

昭和57年1月 家業の布団販売を手伝っていた松永がA子と結婚する。

昭和57年秋頃 松永が当時幼稚園教諭だった純子に連絡したのがきっかけで二人の交際が始まる。

昭和58年5月 松永が柳川市で有限会社ワールドを設立し、詐欺的手法による布団販売を本格化させる。

平成4年10月 (有)ワールドが破綻する。松永が詐欺で指名手配されたため、松永と純子は北九州市で逃亡生活を始める。この時にアパートを仲介した不動産会社員の知人(34)と知り合う。

平成6年10月 松永と純子が知人(34)の娘(保護された少女・当時10)を預かると言って押しかけ、同居を開始する。

平成8年2月 不動産会社員の知人(34)が衰弱死させられる。

平成9年4月 松永が緒方家の財産を巻き上げ、緒方家全員を監禁する。

平成9年12月 純子の父の緒方譽(61)が通電によって殺される。

平成10年1月 純子の母・緒方静美(58)が絞殺される。

平成10年2月 純子の妹・緒方理恵子(33)が絞殺される。

平成10年4月 純子の義弟・緒方主也(38)が衰弱死させられる。

平成10年5月 純子の甥・緒方優貴(5)が絞殺される。

平成10年6月 純子の姪・緒方彩(10)が絞殺される。

平成14年3月 不動産会社員の知人(34)の娘(10⇒17)が逃亡して事件が発覚。娘の祖父が被害届を出し、福岡県警が松永と純子を逮捕した。

(有)ワールドの詐欺商法と通電

松永が設立したワールドは、脅し、罰金を用いて従業員を恐怖で支配する会社だった。

従業員の同級生や教師に無理やり高額な布団セットを販売させ、1億8千万円以上を稼いだという。

 

最初の通電道具は、ワールド時代に高校の電気科を卒業した社員が遊び半分で作ったもので、最初はチクリとする程度だった。

それに目を付けた松永が改良し、威力を最大限に高めると、従業員は通電に対して恐怖に慄くようになった。

指に導線を巻き付けられて電気を通され、肉が溶けてケロイド状になり、骨が見えていた。応急処置でオキシドールを塗って油紙と包帯を巻いたが、指の間が癒着するという後遺症が残った。また、檻に閉じ込めてからは、腕の動きの異変が顕著になった。

「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」豊田正義

遺体のない殺人現場

バラバラ殺人は、少なくないが、松永は遺体の処理方法についても非凡な才能を有していた。

まずは、自分は一切手を出さずに、指示だけをして遺体の血抜きをさせる。

血抜きを終えると、包丁やノコギリで体を切断させ、長時間にわたって切断した体を煮込んで液体化させる。

液体化させた遺体は、公衆便所に流し、証拠は何一つ残していない。

彼はまず、切断部分を少しずつ家庭用鍋に入れて煮込むよう指示した。さらに長時間煮込んで柔らかくなった肉片や内臓をミキサーにかけて液状化し、いくつものペットボトルに詰め、それらを公園の公衆便所に流させた。粉々にした骨や歯は、みそと一緒に団子状に固め、クッキー缶十数缶に分けて詰め込んだ。そして大分県の竹田津港まで赴き、夜更けにフェリー船上から味噌団子を散布した。

「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」

 

松永と純子の犯行を裏付ける証拠は残っておらず、少女の証言だけだった。

裁判

福岡地裁の一審では、松永と純子に死刑判決が下った。

松永は即日控訴した。

 

二審では、松永に死刑判決が下る。

純子に対しては、一審同様責任能力を認めて心神喪失を否定したが、犯行時の心理状態が松永による通電などのドメスティックバイオレンスの強い影響下にあったとされた。

長年にわたって松永の手足となって汚れ役をさせられ、恐怖心から指示に従った、判断力が低下していた可能性がある、と純子の判断力の低下を認めた。

さらに、逮捕後は、事件について隠し事をせずに自白し、事件の解明に寄与し、真摯に反省していることから、純子は無期懲役に減刑された。

 

2011年12月、最高裁は松永の上告を棄却。

松永の死刑が確定した。

松永は現在、死刑囚として福岡拘置所に収監されている。

 

 

 

 

参考文献

北九州連続殺人事件の教訓

「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」豊田正義