大阪市西成替え玉連続殺人事件は、大阪市西成のスナック経営の中国人の女、「尹麗娜(イン・リナ)」が主犯の連続殺人事件。
2001~02年に遺産相続目的で、夫と「替え玉」2人の男性の計3人を殺害したとして、中国人のイン・リナが殺人などの罪に問われた。
2013年11月、最高裁は地裁の判決を支持、イン・リナの無期懲役が確定した。
3人を殺害したとされる尹麗娜(イン・リナ)
最初の発覚
2002年4月、東北で一人暮らしをしていた女性・加藤和子(仮名)さんのもとに、大阪市役所の職員から「先日、提出された転入届の書類に記載ミスがあった。」という電話がかかってくる。
確かに和子さんは大阪に実家があったが、何十年も前から現在の住所に住んでおり、全く身に覚えのないことであった。
職員によれば、短期間で実家のある大阪と東北の現住所の間で、最近二度にわたって住所を変更する手続きがあったというのだ。
身に覚えのないことに、うす気味悪くなった和子さんは、戸籍を取り寄せ調べてみた。
すると、大坂で暮らしていたはずの父・加藤善一郎さん(77歳)が2か月前に死亡していたことが分かった。
もし、2か月前に死亡したのであれば、なぜ和子さんに知らされなかったのだろうかと不審に思い、実家に連絡をしてみたが連絡はとれなかった。
しかも、戸籍には、1年ほど前に父が中国人の尹麗娜(イン・リナ)という女性と再婚していたことが記載されていた。
イン・リナは、大阪の西成でスナックを経営する女だった。
不安を覚えた和子さんは、警察に相談しようと思い、大阪の警察署に相談する。
警察が調べてみると、再婚から半年後、父・加藤さんは死亡し、死亡届が出されていたことが分かった。
また、不可解なことに死亡届が出された場所が、父と娘にとって縁もゆかりもない土地、石川県ということも分かった。
早速、刑事は石川県警に問い合わせ、検死の際の写真を取り寄せ、和子さんに確認してもらった。
和子さんは、写真を見て「これは父ではない」、写真は加藤さんとは別人の顔であった。
尹麗娜(イン・リナ)に対する調査
加藤善一郎さんには、和子さんの他にも2人の娘がいた。和子さんの妹2人も事件について何も知らなかった。
警察は、加藤さんの再婚相手のイン・リナなら事情を知っているだろうと連絡を取ろうとするも、失踪して誰も行方を知らなかった。
西成周辺でイン・リナの聞き込み調査を行うと、ホームレスからの評判が非常に良いことが分かった。
さらに警察が調査を続けると、加藤さんが生前所有していた西成にある380坪の土地が、全て再婚相手のイン・リナが相続していたことが分かった。
不審に思った警察が、遺産相続を担当した法務局の職員に話を聞くと、3姉妹のうち次女と三女は遺産を放棄し、長女(和子)とイン・リナで土地を2分の1ずつ相続したことが分かった。
ところが、この話を本当の娘の3人が誰も知らなかった。
イン・リナの生い立ち
尹麗娜(イン・リナ)は、中国の北京で生まれた。
42歳の時に日本へ来日するため、日本人男性と結婚した。
すぐに離婚し、西成で和風スナックを開店させる。
イン・リナが信頼していたのは金だけだった。
犯行の全貌
イン・リナのスナックの経営は順調だったが、やがてそれだけでは満足できなくなる。
イン・リナが次に狙ったのは孤独老人の遺産だった。
中でも大きな遺産を所有していたのが加藤善一郎さんだった。
イン・リナは、財産目当てで加藤さんと結婚するが、77歳という高齢に似合わず加藤さんは元気そのものだった。
これでは加藤さんの遺産を相続できるのはいつのことか、思い悩んだイン・リナが計画したのは、加藤さんの遺産を相続するために替え玉を使うことだった。
事件発覚から1月後、イン・リナを全国指名手配した。
しかし、イン・リナの行方は一向に分からなかった。
事件から1か月してイン・リナの共謀者の越田が窃盗の容疑で捕まった。
警察が取り調べると、越田はあっさりと自供する。
イン・リナが経営していたスナックの常連客であった越田は、イン・リナから相談を受けたことで事件に関わることになる。
夫の加藤善一郎さんの財産を狙ったイン・リナは、糖尿病のホームレスを探し出し、加藤さんの身替わりとして病院に入院させた。
イン・リナがホームレスから評判が良かったのは、加藤さんの身代わりを探していたため、積極的にホームレスに声をかけていたからだった。
やがてイン・リナは、糖尿病が良くなっていないにもかかわらず、ホームレス男性を一時退院させる。
越田に石川県の一軒家を用意させ、ホームレスに静養先として紹介させた。
石川県の一軒家で糖尿病のホームレスを迎え入れると、ホームレスを拘束して監禁し、糖尿病の薬インスリンを与えずに死亡させた。
その後、遺体を部屋に入れ、あくまでも病死として医師に連絡し、警察も疑うことなく、検死結果は病死として処理された。
遺産相続に参加した人間は全て身替わりだった。替え玉の3人は越田に用意させた。
イン・リナは、替え玉と偽造した印鑑証明を使って法務局の職員を見事にだましたのだ。
法務局の職員に疑われないように、相続会議の前に和子さんの住民票を大阪に移しておき、相続させるといった手の込んだことをしていた。
そして、和子さんに住民票を移したことがバレないように、再び東北に戻し、その際、和子さんの替え玉に大阪の土地をイン・リンに譲ると告げさせた。
こうしてイン・リンは、加藤さんの土地の全てを相続した。
警察の調査によって、加藤さんとイン・リナが住んでいたアパートから血痕が発見された。
このアパートで加藤さんがイン・リナによって殺害されたのではと推定された。
イン・リナの逃亡
越田の自供から事件の全貌を知った警察は、事件から1か月後、イン・リナを全国指名手配するが、その後5年足取りをつかむことができなかった。
事件発覚から5年後、事件を特集した雑誌を見た男性からイン・リナに似ている人物がいるとの通報を受けた。
通報をもとに、警察がアパートに駆けつけてみると、アパートの部屋から出てきたのはイン・リナその人だった。
もう1人の替え玉である高木清さんは、最初の身替わりとして目をつけられたが、血糖値が正常に戻り、後日、バラバラ遺体となって発見される。
おそらく血糖値が正常になったことから、身替わりが務まらないとイン・リナに判断されて殺害された可能性が高いが、証拠は見つからなかった。
判決
大阪地裁は、「被告人が男性を死亡させた状況が全く分からず、暴行が殺意が認められるほど強いものであったと断定することは出来ない。」とした。
しかし、押し入れの血痕や骨格筋などから、彼女が死に至らしめ、遺体を処分した可能性が高いと判断し、 傷害致死との判決を下した。
身代わりとなった男性に対しては、「糖尿病の悪化により、死亡させる計画を立てていた事が認められる。」として殺人の判決を下した。
最高裁もこれを支持し、2013年11月、イン・リナの無期懲役が確定した。
主犯 尹麗娜(イン・リナ) 無期懲役
共謀者 越田俊昭 懲役15年
加藤善一郎さん(77)の遺体は今も見付かっておらず、行方不明のままである。