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平安時代の日本では、生き物の死は穢れ(けがれ)として忌み嫌われ、死んだ牛馬をかたずける人々は「えた(エタ・穢多)、皮多、河原者、長史、非人、乞胸(ごうむね)」等と呼ばれて賤視された。地方によって呼び方は違うが、いずれも差別された人たちのことを指している。

こうした人々は、牛馬を殺して肉を食し、死体から皮を剥いで皮革産業の担い手となった。

時代が下って武士の時代になると、えたや非人は処刑の手伝いや死体の後片づけ、汚物の片づけ等も担うようになる。

 

江戸時代になると身分は固定されたうえ、引っ越しが禁止されたため、えた・非人と呼ばれた人々はその身分から脱却することは不可能となり、一生をえた・非人のまま終えることになった。

 

えた・非人という身分を脱却できたのは、明治時代の政府が発令した解放令によってだった。

解放令によってようやく酷い状態を脱せられたと思ったえた・非人の人々だったが、実際はその後も彼らに対する差別は続き、それどころか今も結婚や教育、就職で不当に差別されている。

穢れの始まり

平安時代に中国から仏教の教えが広まると、動物を殺傷して肉食すると地獄に落ちるという教えが広がった。

やがて動物の死は穢れており、死穢(しえ)に侵された者は死後は地獄に落ちるといった概念ができあがる。

こうして動物を殺して肉食し、皮を剥いで革にする人たちは蔑まれるようになった。

 

穢多・河原者(被差別部落民)は、社会からは蔑まれたが、肉食と皮革を独占できた。

やがて河原者の部落が形成され、部落の長が現れるようになる。

河原者は、動物の死に携わる専門職となり、常に穢れるようになった。

 

こうして本来は卑しくもないはずなのに、動物の死に携わる職に就いた人達は、常に穢れが付きまとうという理由で差別されるようになった。

弾左衛門の誕生

江戸時代になると、関東の穢多・非人を統括する頭として弾左衛門が誕生した。

弾左衛門は、関八州の穢多・非人を支配し、何千石もの収入を得ていたという。

 

穢多・非人の身分を決定づけたのは、江戸時代の身分制度だった。

江戸時代になると身分や仕事は代々引き継ぐものとされ、穢多や非人の人々はその身分からの脱却は不可能になった。

元々平民だった者が罪を犯して非人に落ちた場合のみ元に戻ることができたというが、生まれついての穢多・非人の場合は一生穢多・非人のままだった。

 

弾左衛門が穢多頭として担っていた仕事は、仕置き御用、牛馬の引き取り、太鼓の革張替え、葬祭手伝、警備、牢屋番、処刑と後片付け、汚物の片付け等である。

弾左衛門の支配下にあった賤民は、穢多、非人、長史、座頭、傀儡師、獅子舞、大道芸人、猿曳、歌舞伎役者、石切、辻眼暗、鉢叩、牢番、陰陽師と実に多い。

被差別部落民に対する差別

江戸時代の被差別部落民の扱いは酷かった。

或る時、農民と穢多が喧嘩をして穢多が殺されるという事件が起こり、穢多の遺族がお上に訴えると、お上からは「お前らは身分が卑しいのだから1人や2人殺されたくらいで訴えるな」と訴えが退けられたという話があるほどだ。

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明治になって解放令が出た時は、それに反対する一揆が各地で起こるのだが、特に有名なのが今の岡山県で起こった美作騒擾である。

美作騒擾では、被差別部落民18人が殺害された。

解放令が出た後、四民平等となったのに部落民だけは相変わらず卑しめられて苦しめられ、日々の生活も困窮した。

破戒

島崎藤村の破戒は、被差別部落出身の小学校の教師・瀨川丑松が主人公の小説である。

 

父親の戒めを守って小学校の教師にまでなった丑松だったが、解放令が出された後も結局部落民に対する差別はなくならなかった。

丑松は、部落出身の自分たちだけが差別され、苦しめられる道理はないと考え、父の戒めを破って自分が被差別部落出身であることを告白してしまう。

 

破戒は、社会の道理に合わない問題を題材にした小説。

 

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言われのない差別と偏見の中で生きた主人公・瀬川丑松。
日露戦争を通過した戦後文学の最初の新しい旗として、花々しく評価された作品。

明治後期、部落出身の教員瀬川丑松は父親から身分を隠せと堅く戒められていたにもかかわらず、同じ宿命を持つ解放運動家、猪子蓮太郎の壮烈な死に心を動かされ、ついに父の戒めを破ってしまう。その結果偽善にみちた社会は丑松を追放し、彼はテキサスをさして旅立つ。
激しい正義感をもって社会問題に対処し、目ざめたものの内面的相剋を描いて近代日本文学の頂点をなす傑作である。用語、時代背景などについての詳細な注解および年譜を付す。[付・北小路健「『破戒』と差別問題」]

東京では名前しか知らない人も多い

江戸時代の身分制度に端を発するえた・非人についての問題は、同和問題と呼ばれている。

えた・非人については、東京よりも田舎の方が問題となることが多いようだ。

私は、東京で育ったが、同和問題について学校で習ったことはなく、えた・非人について知ったのは大学時代に読んだ島崎藤村の破戒によってである。

 

東京は人が多く、人口減少時代の現在でも人口が増えており、土地の開発などで周りの環境もどんどん変化していることから、同和問題を授業で取り上げてもピンとこない子がほとんどだろう。

えた・非人というワードを聞いたことがあってもよく知らない人は私のまわりには実際多かったりする。

 

 

 

参考文献

「ルポ現代の被差別部落」若宮啓文著

「えた非人 社会外の社会」柳瀬勁介著

「弾左衛門とその時代」塩見鮮一郎著

「弾左衛門の謎」塩見鮮一郎著