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社長一家無理心中事件

平成6年に起きた一家無理心中事件。犯人は、ロープで自分の首をつって自殺したが、自分が死ぬまでをテープに録音して実況している。

事件発覚

平成6年11月14日、東京都葛飾区西新小岩の公団賃貸マンションに住む男性と連絡がつかないことを不審に思った姉が訪ねてみると、男性の妻(49)と娘(23)が死体となっていた。しかし、そこに男性の姿はなく、行方が知れなかったが、事件発覚から5日後に長野県のホテルで首をつって死んでいるのが発見された。男性(50)は、死ぬ直前の音声を録音していて、死ぬ絶叫の瞬間がテープで録音されていた。

家族

男性(夫)は、昭和18年12月に長野県の松本市で生まれた。地元の高校を卒業後、上智大学に入学するが、翌年に信州大学の教育学部音楽課程へ再入学している。大学時代に妻と知り合い、卒業後に結婚した。ほどなくして娘も生まれ、一流企業のサラリーマンとして家族三人幸せな生活を送っているかに見えた。

平成3年、夫は退職し、クラシック音楽の音楽ソフトを制作する会社を設立した。設立後は豪華な生活を送るが、次第に運転資金がなくなり借金を重ね、三年後には破綻寸前だった。

夫はソニー・ミュージックエンタテインメントの元社員で、事件当時はクラシック音楽を専門に扱うソフト制作会社を自分で経営していた。妻(49)とは大学時代の同期生で、東京女子大学に通う長女(23)と親子3人、東京都葛飾区にある公団賃貸マンションに住んでいた。

夫は、事業に失敗したものの、離婚や自分だけ消えるということは出来なかったため、妻と娘を絞殺して無理心中を図った。

「僕がこの事業に失敗したからということで、例えば離婚するとか、あるいは僕だけ、まあ消えちゃう、まっ、そういうことは僕は出来ませんからですね、やったとしても、あのカミさんの性格、子供の性格を考えますと、まあとにかく、信じられないくらいの心の負担になって、何もできなくなって、本当に心身ともにボロボロになってしまうんじゃないかなと思うんですね」というのが無理心中を起こした動機である、とテープに残している。

対照的な夫婦

見栄っ張りな夫とは対照的に、妻は派手なことが嫌いで潔癖で地味だったが良妻賢母タイプだった。

夫は11月10日に妻と娘を殺害しているが、その日は金融会社からの借金の返済日だった。妻には何一つ知らせておらず、返済が困難なことも妻は知らなかった。前日の9日に借金の保証人になっている夫の親族からの電話で初めて妻は借金の返済日が明日に迫っていることを知ったという。

10日早朝、妻は、布団に入っているところをロープで背後から絞殺されたものと見られている。その後、娘が朝食を食べ終わった後、後ろからロープで絞殺したと本人が録音したテープで説明している。

11月10日の早朝7時頃、近所の主婦が女性の「たすけて」という声を聞いていた。

12日になって電話が通じないことから夫の姉がマンションを訪ねるが応答はなかった。14日に再度、夫の姉と兄が共に訪ね、鍵の業者に部屋を開けてもらい中に入ってみると、二人の遺体が横たわっていた。

夫の旅行

夫は、妻子を殺害後、「あそこに行きたかった、ここにも行きたい」と家族で話したことを思い出し、死ぬのはいつでも出来るからと旅に出た。

妻と娘を殺害した当日、神田にある山の上ホテルで一泊し、翌日に名古屋に向かった。東京を出る前に、「地獄から天国へ行きます」というメッセージを添えて自宅宛に花を贈った。

夫は、二人の遺髪を持って旅に出ていたが、テープでは度々三人で旅しているかのような発言をしている。名古屋から海外に行こうと考えたが、パスポートがないため諦めた。そして、次に向かったのは伊豆下田だった。下田プリンスで一泊した後は、箱根に向かい箱根プリンスに泊まった。

14日になって二人の遺体が発見されたが、警察に車を停止されたときに備えてペットボトルにメチルアルコールとベンジンを入れておいてライターを擦ればいつでも死ねる用意もしていた。

15日になって向かった先は、娘が希望した奈良だった。そして、奈良を最期の地と覚悟する。

最期の食事

奈良市内のホテルに入った夫は、二人の遺髪を飾り、花を飾ってともに食事をした。

16日の午前2時に覚悟を決める。しかし、首を吊っている途中でひもが切れてしまい、失敗してしまう。気付いてみれば辺り一面便まみれでチェックアウトまで片づけたが、結局逃げるように出ていった。

11月18日、長野県塩尻のホテルで今度は失敗しないようにロープとナイフを購入する。

自殺決行前、テープの声は悲壮感が漂って妻と娘への詫びが続く。

「いま、19日の零時、あ、ごめんなさい1時2分前です」全ての準備が整ったとビールを飲んで気を紛らわした。

「鏡台の上に乗って今、落ちます、ふーっ、ふーっ、ぐう、はい、」その後、妻と娘の名を呼び、絶叫と悲鳴が響く。

「絶対死なせてくれよ、頼むな、ウワアッ」ゴーッと10分ほど轟音が続いた後テープは終わる。

死体は、19日早朝、ホテルの従業員によって発見された。

 

夫は、生前に親族と共に墓を購入していた。だが、遺骨が納められているのにもかかわらず、夫の名前はなく、掃除をされている様子もない。家族のために購入した墓だったが、親族は他に墓を買い、親族は妻と娘が夫と同じ墓に葬ることを拒んだ。

 

 

参考

殺人者はそこにいる 逃げ切れない狂気、非情の13事件  「新潮45」編集部編